2012/09/18

サイクリングロードの空



イギリスの夏は駆け足で去っていってしまいます。
そして秋はちらりと顔をのぞかせるだけの愛想の悪さ。
日本のように美しい紅葉のおもてなしなんてありません。
はっぱはすぐに枯れ落ち、冷たい木枯らしとともにピンとした空気が長い冬のおとずれを知らせます。
最近は朝起きると窓がびっしりと結露するようになりました。
そんな季節の移り変わりを感じる今日この頃。空はぐんと透明度を増し、雲は秋模様にそのさまを変えていきます。

長いサイクリングロードを走るのが好きです。まっすぐ伸びる道をぐんぐんとペダルをこぎながら、好きな音楽を頭の片隅に流し、物思いにふけります。ちょっと危ないですが、そういうときはなんだかいろんなことを考えられるような気がするのです。自分の生き方のこととか、これからどうしたいとか、そんな自分の事のときもあれば、地球や大気、植物やエコについて考えることもあります。もうすぐ新学期が始まるので(実はまだ学生です)、宿題についてぼんやりと考えたりもします。
でもなにより「イギリスに来て本当によかったなぁ、私は今、幸せだ」と耳を切る冷たい風とともに感じるのです。

イギリスに飛び込んできてしまって早5年。あっという間です。
あのとき退職していなければ、きっと私は今安定した暮らしを送っていたでしょう。
同僚と飲みに行ったり、家族で旅行に行ったり、友人と遊び歩いたり、楽しい毎日だったでしょう。
きっと結婚相手もいて、素敵な家庭を築いていたかも知れません。

でもそのときの私は、そんな当たり前の幸せに気づくことができなかったのです。
毎日おんなじような生活にうんざりしていたのかもしれません。
何か新しい刺激を求めてしまっただけかもしれません。
…こんなふうに言うと、なんだか私がイギリスに来てしまったことを後悔しているように聞こえますが、実は全くそうではないのです。

こちらに来てから本当に、今までとはまったくちがった生活を送っています。
世界中の人と友達になり、ヨーロッパを一人旅もしました。
富める者と過ごし、また逆に明日の食事にも困る人々とも過ごしました。
バチカン市国の大聖堂で祈り、また小さな町の教会にもろうそくを灯し、自分の家族のために祈りました。
そしてなにより、この5年という歳月は私にまったく違った「人生の考え方」を考える時間を与えてくれました。
そうやって、ようやく私は5年前の幸せが幸せであると気づいたのです。

そう思い至ったとき、私はとても満ち足りた気分になるのです。
そしてそういうときはたいてい、颯爽と風を切ってどこまでも続く道を走っているのです。



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